この記事では、ADHDの原因について解説します。
ADHDの原因は、親の躾や愛情不足によっては起こるものではありません。
しかし、親の関わり方はとても大切な要素ではあります。
ADHDかな?という小学生の例を使って分かりやすく説明していきますね。
遺伝や兄弟の影響など、ADHDにまつわる質問もQ&Aにまとめました。
まずは正しい知識を得ることで、ADHDのお子さんと関わりやすくなりますよ。
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目次
【結論】ADHDの原因は、親のせいではありません!
ADHDの原因は、親の子育ての仕方や育った環境によって起こるものではありません。
先天的な脳の障害です。
ここを間違えてはいけません。
落ち着かない・危なっかしい行動ばかりするADHDの子を育てる親は、「親が甘やかしているからだ」と後ろ指を指されることがあります。「ちゃんと躾をしろ」とまで言われてしまいます。
周りから批判をされて、「自分のせいではないか…。」と考えてしまう時も多いのです。
親御さんは自分を責めないようにしましょう!
周囲の人は、ADHDだとも知りません。
ADHDと言っても、「それなに?」って感じ。
周囲に理解を求めるのも大事ですが、まずは親御さんが正しい理解を持つことから始めましょう!
ただ、ADHDのような行動は養育環境によっても起こります【事例あり】
ADHDのような多動や衝動性(落ち着かない・周りに暴力を奮う)は、養育環境によって起こる可能性があります。
子育てとは関係ないのでは?
先ほどの説明とは矛盾していますね。
ここでは、小学校3年生のA君の事例を紹介します。
ADHDと見分けがつけることで、支援の方法はまったく違ってきますよ。
※事例は架空のものです。
ADHDの疑いがあるA君の学校の様子
A君は小学校3年生。小学校に上がってから、授業中に落ち着かず席を立って歩き回ったり落ち着きません。先生が何度注意しても、どこかぼーっとした様子で聞いていません。まわりの子が注意すると、「お前に関係ねぇーだろ!」と突然怒り出し叩いてしまいました。
担任の先生は、多動や衝動性、注意集中が続かないという理由から、ADHDなのではないか?と考えています。先生が注意する頻度が増えてくると、「もう学校なんか行きたくない!」と言って、登校を渋り始めます。先生も対応方法に困り、スクールカウンセラー(以下SC)に相談しました。
A君の行動だけを捉えると、たしかにADHDの可能性が考えられます。
担任の先生だけでなく、A君自身も困ってしまっているようです。
SCは、A君の親御さんに連絡し、家庭の様子や小さい頃の様子を聞いてみることにしました。
ADHDの疑いがあるA君の家庭の様子
A君の母親は、やせ細った小柄な女性。
どこか怯えた様子の母親は、常に「ごめんなさい。私の育て方が間違っているんです。」と言いながら涙を流しています。
「一緒に協力しながら、どうすれば良いのか考えましょう。」
SCは、母の苦労を労いながら、これまでのA君の生活歴を聞いていきます。
・小さい頃は、大人しくひとりで静かに遊ぶのが好きな子。
・友達関係は、広くは無かったですが、友達と外遊びを楽しむことが出来る。
・3年前に、コロナの影響により経営していた会社が倒産。以降、父親は仕事をせず家でお酒ばかり飲んでいる。
・温和だった父親は突然スイッチが入ったように怒り出し、物を投げたり大声を出して家の中で暴れる。
・家族は父親の機嫌が悪くならないように、常に顔色を伺いながら生活。
・父親が夜中に暴れることもあるので、夜もぐっすり寝られません。
・夜中に悪夢でうなされたり、おねしょで布団が濡れてしまうことも度々。
SCは、A君がADHDではなく養育環境が影響しているのではと考えました。
A君はADHDなのか?問題行動から考えてみる
改めてA君の問題行動を考えてみます。
・教室をフラフラと歩き回る
・先生の話をぼーっと聞いている
・突然切れる
A君の抱える問題行動を見てみましょう。
教室をフラフラと歩き回る
教室をフラフラと歩き回るのは、ADHDの特性である【多動】が影響している可能性があります。
しかし、A君の場合、周囲の物音に敏感に反応しているようでした。
家庭環境が落ち着かず、常に外側の音に注意を向けていないといけない環境に育っている彼は、些細な物音も拾うようになっています。その為、注意が続かず、自分が分からない音や変化に対して、気になりやすくなっているようです。
先生の話をぼーっと聞いている
先生の話をぼーっと聞いているのは、ADHDの特性として、【聴覚情報が入りづらい】【集中力が続かない】が影響している可能性があります。
しかし、A君の場合は、シンプルに十分な睡眠が取れず、頭の中がぼーっとしているのかもしれません。悪夢でうなされたり、父親の暴言で落ち着かない時間が多いことも影響しているのでしょう。
また、ぼーっとすることで自分のこころを守っている可能性があります。
注意をされることはA君にとって、とても怖い体験となっています。時には家で叩かれているかもしれません。そのような危険性を感じている彼は、注意をされるシチュエーションでは、こころと身体をシャットダウンして、やりすごす方法を身につけている可能性がありでしょう。
突然切れる
感情コントロールの難しさは、ADHDの【衝動性」の特性が影響しているかもしれません。
しかし、A君の場合は、もともと大人しい性格だったので、人に対して切れるようなタイプでは無さそうです。
A君は、父親の行動をモデルとしているのかもしれません。「気分が悪い=大声で怒鳴る」を見て育っているので、同じような行動を取っている可能性が考えられます。
また、自分の気持ちを言葉で説明する力が身についていないのかもしれません。友達から言われた言葉に対して、どう反応したら良いのか分からず、つい怒ったような口調になっている可能性もあるでしょう。
A君の支援案について3つの柱で考える
①父親には医療的なサポートを行う
②母親には心理的なサポートを行う
③A君には学校で出来るサポートを行う
ここでは、父、母、A君の3人にそれぞれサポートを考えてみます。
父親には医療及び経済的なサポートを行う
父親は、アルコールの問題がありそうです。アルコール飲酒が続き、情緒が不安定になっている様子があります。父親自身の精神的な安定を目指すため、心療内科など医療的なサポートを促していきました。
当初は心療内科なんて…と難色を示していた父親も、薬を飲むことで不安や不眠などの症状が少しずつ改善していきました。
また、経済的な困窮も、背景にありそうです。会社の倒産・仕事が見つからないなどの経済的負荷が、将来への見通しの悪さとなっているようです。
債務整理のために弁護士に相談したり、公的機関への再就職を目指すための情報提供を行うことにしました。
将来に見通しが持てなかった父親ですが、少しずつ気持ちを切り替え、新しい仕事への意欲が戻ってきました。就職活動は、すぐに結果は出ませんでした。しかし、経営経験もある為、いくつかの会社は興味を示してくれているという報告を母親からもらいました。
母親には心理的なサポートを行う
母親は、旦那さんのサポートと子育てなどに振り回されて疲れ切っています。
常に「ごめんなさい」と語り、全ての責任を自分のせいだと考えてしまっているようです。
母親の心理的なサポートとして、SCや学校が相談窓口になることが出来ると提案しました。
最初は、遠慮がちな母親でしたが、徐々に笑顔も見られるようになりました。A君が間違った行動をした時には、ちゃんと理由を説明して叱ることも出来るようになってきました。
A君には安心な場所と時間を提供する
A君は、家庭でも学校でも常に緊張感が高いようです。常に周囲に目を光らせ、危害が及ばないように必死。せめて学校の中では落ち着いて過ごせるようにしたいもの。
担任の先生は、A君が得意な教科に注目しました。算数です。算数の問題を簡単に解けるA君をみんなの前で褒めるようにしてみました。そして、算数が苦手な子には、A君が教えてあげるようにしてみました。すると、A君は褒められる機会が増えて自信がついてきます。友達からも感謝をされることで、まわりと繋がりが出てきます。
また、市役所と掛け合って、学童保育に行けるようにしました。そこでは放課後にたくさんの友達と外遊びが出来ます。夕方までみっちり遊びまわることで、気持ちが発散できるようになり、疲れて睡眠も取れるようになりました。
A君は、少しずつ本来の力を取り戻してきました。教室内のふらつきも落ち着き、友達にも積極的に関われるようになりました。ADHDの特性ではなく、環境的な要因を改善することで、成功した例のひとつです。
ADHDの原因についてQ&A
ADHDの原因としてよくある5つの質問についてまとめました。
Q1:ADHDの原因として遺伝は関係している?
A1:少なからず遺伝的な要因はあるようです。
自治医科大学病院の門田行史氏によると、親がADHDの場合、50~80%(平均70%)の確立で、お子さんがADHDになると言われています。この数をどう捉えるかは人それぞれですが、少なくない確立だと考えられます。
しかし、ADHDになるという特異的な遺伝子は見つかっていません。様々な要因によって起こりうる可能性があるということです。
Q2:兄弟でADHDの可能性はある?
A2:研究結果からは、兄弟でADHDになる可能性はあります。
しかし、必ずではありません。同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でも、ひとりは非ADHDだったケースがあります。
十分な研究が進んでいないのが正直なところです。
Q3:ADHDは、養育環境による他の影響はありますか?
A3:ADHDの人の2次障害は課題となっています。
2次障害とは、もともとの障害によるものではなく、2次的に起こってしまう問題です。ADHDの人は、周囲から目立ってしまうため、注意をされる機会が増えます。その為、くり返し注意されることが続くと、自分に自信を持てなくなります。自己肯定感が低くなったり、時にはメンタルを崩してしまう人もいます。
2次障害の有無は、養育・生活環境によって影響される部分とも言えます。
Q4:ADHDなのかどうか分かりません…
A4:まずは専門家に相談してみましょう。
ADHDの診断は、障害特性を十分に理解している小児科の先生や、児童精神科の先生が行う場合が多いです。おかしいな?と感じたら、躊躇せず一度相談に行かれることをお勧めします。
発達障害の支援は、療育や通級指導教室などがあります。
親御さんの相談先ともなりますので、メリットは大きいですよ。
Q5:父親は「子どもなんてこんなもの」と取り合ってくれません
A5:父子2人で過ごす時間を増やしましょう
ADHDを抱えるご家庭でよくあるパターンです。
奥さんは困っているけれど、旦那さんは取り合ってくれない。奥さんが一人で悩みを抱えてしまいます。
リアルな困り感が旦那さんに伝わっていない可能性があります。旦那さんとお子さんが過ごす時間を増やしてみると良いでしょう。週末の自由な時間よりも、時間通りに動かないと困りやすい平日の方が良いですね。
ADHDの原因とは?養育環境の大切さについてまとめ
ADHDは親の子育ての影響や愛情不足から生じる障害ではありません。先天的な脳の障害のひとつであることが分かっています。ただ、ADHDのような行動特性は、生活環境によって生まれてくる可能性を事例を通して紹介しました。
親御さんは、自分自身を責めないでください。ひとりでしんどさを抱えず、学校や病院などに相談してみてください。
みんなで一緒に考えましょう。
みんなで一緒に支えていきましょう。