メンタルクリニック通院手引き

コロナで気持ちが安定

コロナ感染の不安が高まる今、精神科クリニックにも患者さんから沢山の問い合わせがあります。元々高かった不安がさらに高まり、気持ちのコントロールをすることが難しくなった人。安定していた人が、この機会に症状をぶり返す人。多くの場合、この見通しの無い状況がマイナス方向に働いてしまうことが多いです。

そういった中で、一定数の患者さんの中には、コロナによって不安が一時的に収まっている方も見受けられます。不安は勿論あるのですが、逆にどこか安定している方の特徴とはなんでしょうか?いくつかの例を紹介します(患者さん個人を特定するものではありません。)

1)強迫性障害の方

 強迫性障害の人は、自分の不安な気持ちを抱えきれずに、行動をすることが特徴です。「家の外のものは全て汚い」「外出したらすべて綺麗にしないと、家の中が汚くなる」という強迫観念が出てくると、「帰ったらすぐに風呂に入り、長時間をかけて身体を洗う」という強迫行為をする。そういった不安を収める行動自体が、さらに次の不安を高めてしまうループを作る方が多いです。そのような行為は、一緒に生活する家族を巻き込むことも多く、同じような行動を家族にも求め、時にはその指示が極端になることで、家族も疲弊してしまうことがあったり、喧嘩のきっかけになることがあります。

 普段なら「また極端な事を言っている」と発言を無視していたことも、今のコロナ感染の不安の中では、「感染してしまうかもしれない」といった考えを家族も持つことになり、帰ってきたらすぐに風呂に入り、入念に身体を洗うことをするようになります。すると、今まで邪険にされていた本人の言動が受け入れられる状態が家庭内で作られることによって、本人の気持ちが少し落ち着くという結果になる場合があります。

 これは、何が起きているのかを考えると、今までなら本人だけの問題(不安が高すぎる)が、周囲の人達や、社会が同じようなことに不安になっていることによって、仲間意識のような感覚が生まれます。周りも同じように不安に感じていることが安心を生みます。また、問題を外在化(外に問題があると考える思考)することによって、自分の内面にある不安という課題に向き合う必要がなくなることになります。その結果、気持ちが少し楽になるということが起きます。

2)解離性障害

 不安を感じたり、それによって改善しようとする行動が出来るということは、頭で何かを考えられているという状況です。しかし、人によっては自分で考えられる許容範囲を超えてしまうと、思考停止(考えること自体が止まってしまう)が起きる場合があります。「もうどうにでもなってしまえ」と自暴自棄になるといのも一つの思考停止による反応とも取れますが、そういった自暴自棄にさえもならずに、落ち着いてしまう状態です。

 解離性障害の方は、強いストレス状況の中で、そのストレスに耐え切れない状況になると、思考や意識が止まります。意識的にしているというよりは、自動的にシャットダウンするような感覚に近いかもしれません。怒られ続けると寝てしまう子どもがいます。解離ではありませんが、そういった自己防衛本能が働くと、人はその状況から自分を守る方法が生まれます。このような方にとって、今の不安状況(自分も感染しているかも?いつこれが終わるか分からないなど)が、考えることを止めてしまい、その結果気持ちも動かない状況になる場合があります。表面的には「落ち着いている状態」に近いことがあります。

 しかし、よくよく考えてみると、どちらの場合も、表面上は安定しているように見えるのですが、決して状態が良くなっているかと考えると疑問です。家族を巻き込む強迫性障害の人は、社会や周囲の状況が落ち着いてくると、以前のような「周囲とのギャップ」に苦しむことになりますし、自分の不安として向き合う必要が出て来ます。解離性障害の人も、一時思考が停止して心を守っているだけなので、将来的な心の安定を得られている訳ではありません。

 結論としては、表面上は落ち着いているようには見えることも、今だから落ち着いているように見えるけれど、根本的には変わっておらず、逆にそれぞれの方の症状を悪化させる方向に繋がってしまう可能性があるということです。治療者としては、表面的な部分ばかりに引っ張られず、内面に起きている感情について想像し、本人とその出来事をシェアしながら治療をしていくことが望ましいのだろうと思います。

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